LINER NOTES

2016.04.08

OFFICIAL LINER NOTES

 グランプリ受賞者にメジャーデビューを約束し、2015年秋よりスタートした「ホリプロ✕ポニーキャニオン 次世代アニソンシンガー オーディション」。

結局、このプロジェクトには10,041名もの若者が応募し、二次審査、最終審査を経てたったひとりのシンガーが選出されたのだが、その栄光に輝いたのは天性のハイトーンボイスの持ち主でもなく、1/fゆらぎを含んだ癒しの声の持ち主でもない、女性としては希少なアルト・テノールの音域がよく響く、「低音」の力強さが魅力的な女の子だった。

和島あみ、17歳。札幌と函館の間にある山間の街、倶知安町で生まれ育った彼女は、この4月より放送開始のアニメ『迷家-マヨイガ-』にて、アニソンデビューする。

 彼女とアニソンの出会いはおよそ2年前、友人からすすめられた深夜アニメの主題歌が最初だったそうだ。

「とにかくカッコ良くて、一度聴いたら忘れられないキャッチーさに衝撃を受けました。私、覚えやすい歌ほどいい歌だっていう考えがあって、“私もこういう歌が歌いたい”って素直に思えたんです」

 すでにその頃からスクールに通い、歌のレッスンに明け暮れていた和島は、あっという間にアニソンの虜になってしまったという。数々のアニメを観るようになり、やがて「歌詞とアニメの内容がピタッとハマった瞬間に、心奪われ放題なんですよ」という楽しみを見出していった。そしてこのことが、オーディション応募への動機になったのだそうだ。

それにしても、グランプリを獲得してからわずか3ヵ月でのデビューという急展開は、“シンデレラストーリー”と呼ばずしてなんと呼ぼう。つい先日まで普通の高校二年生だった女の子が、春休みが明ける4月にはもう、華やかなステージ上に立っているのだ。

 さて、この早々に決まったデビュー曲こそが、シンプルな編成のバンドサウンドがパワフルに鳴り響く、「幻想ドライブ」である。

余計な装飾を廃したストイックなロックサウンドが、和島の武器である「低音」をエモーショナルに引き立てる。そして曲が進むにつれ徐々にせり上がっていく歌のテンション。ラストのサビでは彼女の若さゆえの「爆発力」をまざまざと見せつけられた。

17歳というダイヤの原石らしい、感情の起伏がダイレクトに迫り来る荒削りな魅力に溢れたこの一曲は、まるで『迷家-マヨイガ-』のキャッチコピーである〈僕が僕になった日——〉よろしく、自我の目覚めを歌っているかのようだ。

 “目一杯 走り続けよう ボクらには未来があるから”

 歌詞にもこうあるように、「幻想ドライブ」はアニメのオープニングテーマであると同時に、一人のアニソンシンガーの門出を歌った曲でもある。まさにデビュー曲。希望を胸に未来を歌う和島の決意表明は、清廉かつ美しい。

 ちなみに彼女は取材を通じ、しきりに“心の中 自問自答の取調室”という一節を取り上げては、「これは過去の私と完全に一致する」と繰り返していた。迷いのなか、導きの閃光によって未来へと駆け出すというこの曲のストーリーには、「感情移入しかできない」という。

というのも、和島あみにとって最大の武器である「低音」は、我々が思うところとは真逆の存在として、過去の彼女に立ちはだかっていたからだ

「クラスの男子に真似されたりするのがめっちゃ恥ずかしくて、自分の声が大嫌いでした」

 本人曰く、自分の声が嫌いで嫌いで仕方がなかった小学生の頃は、思い出したくもないつらい過去なのだそうだ。しかしある日、父が聴く中森明菜の「少女A」に触れたときに、天から光が降ってくるほどの衝撃を受けたという。もしかすると、自分の大嫌いなこの低い声も、歌手になれば活かせるのかもしれない……。やがて彼女は中学生となり、いつしか「歌って踊れるアイドルグループの一員になりたい」と夢見るようになっていた。

「女の子たちの輪に低い声の自分が入ることで、何か特別なスパイスになれるのかなって期待していたんです。でも、本格的なレッスンを求めて札幌に引っ越してからは周りのみんなのレベルが高くて、自信を失ってしまいました。それに正直なところ、私の性格がグループ活動に向いていないとも感じるようになって……。ただそんなときに、ある人が“あみの声は特別なんだから、ひとりでもやれるじゃん”と言ってくれたんです」

 またも不意に差し込んだ希望の光によって、彼女はアイドルからシンガーへと目標を修正し、再びプロを目指すことになる。そしてアニソンとの運命の出会いを果たし、今の幸運=チャンスを手に入れたのだ。

 ところで、彼女はこのシンデレラストーリーの最中、「幻想ドライブ」のレコーディング時に一度だけ涙を流している。

納得いくまで何度も何度もテイクを重ねて作り上げた自分の歌を最後に聴いたとき、「あ、今、夢がかなってるのかも」と初めてデビューを実感したのだそうだ。おそらく頭のなかには、前述してきた過去のつらかった経験もよぎっていたはずだ。

 「昔のつらい思いとか傷ついた経験って、誰にでもあることじゃないですか。でも、だから「幻想ドライブ」を聴いて元気になってほしいというのもちょっと違うと思うんですよ。たぶん、多くの人たちは他人からどうこう言われるまでもなく、過去の傷とかを抱えながら、なんやかんや前向きに生きていると思うんです。この曲は、そういう人に届けばいいなって思います。“ああ、そういうこともあったな”って思ってほしい」

 繰り返しになるが、「幻想ドライブ」は『迷家-マヨイガ-』のオープニングテーマであると同時に、和島あみの思春期そのものを歌った一曲だ。

その物語はどんな過去があったとしても、「それでも」と前を向き続けてきた彼女自身と一致する。

 愚直なまでに真っ直ぐで、素直な生き様。

 この眩しすぎる性格もまた、彼女の「低音」とともに語られるべき個性のひとつなのだろう。尊くエモーショナルな純真性に、我々は心惹かれてしまうのだ。

 記念すべきデビューはもう目前に迫っている。このシンデレラをアニソンシーンが見つける瞬間を、みなで見届けようではないか。

TEXT BY 西原史顕(アニメ音楽ライター)

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